カルロ・クリヴェッリ/聖母子 1480年頃
カルロ・クリヴェッリ/ 聖母子 1480年頃 テンペラ、金/板
Carlo Crivelli / Madonna and Child
解説
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436052
この完全な形で保存されている作品は、この画家の最も精巧な絵の一つである。
ターバンを巻いた人物(異教徒)が歩く背景の細部は、フランドル絵画の影響を受けているのだろうか、驚くべき精密さである。だまし絵のような細部は、人形のような聖母のかわいらしさと対をなしている。リンゴとハエは罪と悪の象徴であり、贖罪の象徴であるキュウリと金魚に対抗するものである。クリヴェッリのサインは、水を張った絹布に蝋で貼り付けた紙片のようなものに記されている。
その他・感想
本日のNHKの日曜美術館は、国立新美術館で現在開催中のメトロポリタン美術館展の特集だった。西洋美術を楽しむコツが満載の特別授業という企画で、講師は美術史が専門の東京大学の三浦篤さんと描き手の視点から漫画家の荒木飛呂彦さんがお話されていた。
その中で、宗教画で描かれる聖母マリアは、赤い服に青いマントの服装、頭上に円光、がひとつの決まり事と知った。
全ての絵に該当する訳ではないけれど、知っておくだけでも絵の見方が変わるので、面白い。キリストは様々なモチーフに変わるが、この絵では胸に抱いたゴシキヒワが、無垢の象徴を表しているとの事。
他にも、書物で知恵を表す絵画なども紹介されていた。
気になったもので、ジャン=レオン・ジェローム「ピュグマリオンとガラテア」もあった。話を知った上で見るともっと楽しめるのは間違いないので、このベースとなるギリシャ神話なども読んで、改めて見てみたいと思う。
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/436483
展示会で実際に見てみたいけど、期間中に行くのは難しいので本当に残念。。
展覧会情報
「メトロポリタン美術館展」国立新美術館(東京)で開催中。2022/5/30まで。
椿の海の記 / 石牟礼道子
『苦海浄土』の著者の最高傑作。精神を病んだ盲目の祖母に寄り添い、ふるさと水俣の美しい自然と心よき人々に囲まれた幼時の記憶。1927年熊本県天草生まれ。
GWは湖のほとりのコテージに宿泊し、自然の中で読書。
少しずつ読み進めていた、椿の海の記を読む。
他の本と明らかに違い、言葉や情景を味わい、ゆっくり読み進める本。
石牟礼さんが幼少期の昭和初期、水俣の風景・人々の様子が描かれている。
P9
春の花々があらかた散り敷いてしまうと、大地の深い匂いがむせてくる。海の香りとそれはせめぎあい、不知火海沿岸は朝あけの靄が立つ。朝陽が、そのような靄をこうこうと染めあげながらのぼり出すと、光の奥からやさしい海があらわれる。
P46
船とわたしたちのいる砂丘のはるかうしろの方の、岬のふところに抱かれて火葬場があった。
そこから春の夜のお月さまにむかって、夜目にもぼおっとひとすじ、山の端を抜けて人を焼く煙がのぼっている。
今では差別とされる事柄が日常で当たり前にあった事に驚いてしまうが、すべては水俣の美しい自然と静かに流れる時間の中にあって、これもリアルなのだと感じる。
この本を手にとったのは、NHKの「本の道しるべ」で平松洋子さんが選んだ5冊に入っていて、気になった事がきっかけ。
石牟礼さんは水俣病について書かれた『苦海浄土』でとても有名なかたであることを、当時知らなかったのだけど、このような本に出会えた事を嬉しく思います。
苦海浄土については、インタビュー動画もありましたが、お話しされる言葉も美しく、本当に素敵な女性だと思いました。