椿の海の記 / 石牟礼道子
『苦海浄土』の著者の最高傑作。精神を病んだ盲目の祖母に寄り添い、ふるさと水俣の美しい自然と心よき人々に囲まれた幼時の記憶。1927年熊本県天草生まれ。
GWは湖のほとりのコテージに宿泊し、自然の中で読書。
少しずつ読み進めていた、椿の海の記を読む。
他の本と明らかに違い、言葉や情景を味わい、ゆっくり読み進める本。
石牟礼さんが幼少期の昭和初期、水俣の風景・人々の様子が描かれている。
P9
春の花々があらかた散り敷いてしまうと、大地の深い匂いがむせてくる。海の香りとそれはせめぎあい、不知火海沿岸は朝あけの靄が立つ。朝陽が、そのような靄をこうこうと染めあげながらのぼり出すと、光の奥からやさしい海があらわれる。
P46
船とわたしたちのいる砂丘のはるかうしろの方の、岬のふところに抱かれて火葬場があった。
そこから春の夜のお月さまにむかって、夜目にもぼおっとひとすじ、山の端を抜けて人を焼く煙がのぼっている。
今では差別とされる事柄が日常で当たり前にあった事に驚いてしまうが、すべては水俣の美しい自然と静かに流れる時間の中にあって、これもリアルなのだと感じる。
この本を手にとったのは、NHKの「本の道しるべ」で平松洋子さんが選んだ5冊に入っていて、気になった事がきっかけ。
石牟礼さんは水俣病について書かれた『苦海浄土』でとても有名なかたであることを、当時知らなかったのだけど、このような本に出会えた事を嬉しく思います。
苦海浄土については、インタビュー動画もありましたが、お話しされる言葉も美しく、本当に素敵な女性だと思いました。